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まちづくり支援制度の全国的整備に関する東京宣言

 私たちは,阪神・淡路大震災の経験から,災害が発生してからではなく,地域に住む市民が自分たちの街をよりよくするために,平時から主体的に取り組むことの重要性を学んだ。

 私たちは,地域の力を引き出し,真に市民が主体となったまちづくりを実現するために,住民およびNPO等の市民団体,行政,そして各種専門家職能の密接な連携によるまちづくり支援のための制度が全国的に整備されることを求め,そのための運動を継続的に展開していくことを誓う。


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1.17神戸の誓い

 

 私たちは,阪神・淡路大震災の経験から,将来の大規模災害による被害を予防し,大規模災害発生時における市民主体の復興を実現するため,専門家として適切な助言ないし支援を協働して行うことによって市民の需要に最大限応えるべき責務を自覚し,かつ次のとおり確認し合った。

  1. 団体間の情報交換を密にし,専門家団体・研究者・NPO・行政等とのネットワークを構築して災害対策の調査・研究・研修・啓蒙等の諸活動を平時より積極的に展開すること
  2. 大規模災害が発生した場合には,被災地域の専門家団体が他地域の団体に専門家会員の派遣・協力を速やかに要請できるものとし,要請を受けた団体が即時これに対応すること
    私たちは,ここ神戸の地において,大規模災害に備えた専門家団体の全国的な支援体制をつくるため,相互に連携していくことを誓う。

2004年1月17日
全国まちづくり専門家フォーラム参加者一同

1.17灯火

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新潟県中越沖地震に関する緊急提言

2007年(平成19年)7月19日

阪神・淡路まちづくり支援機構

 阪神・淡路まちづくり支援機構は、平成7年発生の阪神淡路大震災を契機に弁護士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、建築士等の専門職能が横断的に連携し、被災者らの復興まちづくり支援を行う団体である。
 平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震では、甚大な被害が発生した。犠牲者のご冥福をお祈りし被災地と被災者の方々に心からお見舞いを申し上げる。
 当機構は、現下の被災地の状況に鑑み、一日も早い復旧・復興を願って、以下のとおり緊急提言する。

  1. 被災者らのための万全の避難対策を講じるとともに、高齢者、障害者等の要援護者については、医療体制の充実、旅館、ホテル等の避難所としての活用、緊急的措置として社会福祉施設への受入等を行うべきである。
  2. 生活の早期の安定を可能とする施策を充実させるべきである。例えば、災害救助法23条1項6号に基づく“罹災住宅の応急修理”については、修理費の現金支給を行うなどの弾力的運用を行い、また、同条項7号に基づく“生業に必要な資金・器具・資料の給与”を実施するべきである。
  3. 復興まちづくりの円滑化に寄与するために、各被災者の住宅敷地内に公営の仮設住宅設置を認めるとともに、私設の仮設住宅設置(いわゆる自力仮設住宅)への支援を行うべきである。
  4. 被災者の生活再建に真に役立つ制度とするために、被災者生活再建支援法の改正にあたり、適用要件の緩和、手続きの簡素化、住宅本体の再建・補修・建設費用への直接給付などを行い、今回の地震に遡及適用をすべきである。
  5. 消費税をはじめとする住宅の再建・補修・取得に関する諸税について減免等の救済措置を講じるべきである。また、被災者自身のみならず、依頼先の税理士が被災した場合にも被災時の申告期限の延長を認めるべきである。
  6. 応急危険度判定、被害認定等の作業、さらにはこれに関連する住宅関連の被災者向け相談について、建築士、土地家屋調査士、司法書士、弁護士等の専門職能の積極的活用を図るとともに、被災自治体と各専門士業団体との連携を図るべきである。
  7. 建物の耐震化の必要性を再確認し、今後の復旧・復興過程では、専門家の関与を得ながら、より広域にわたる耐震補強を推進すべきである。とりわけ、公的施設については耐震化を早急に行うべきである。柏崎刈羽原子力発電所の地震に伴う事故につき、徹底した耐震基準の再点検も含めた処置を確実かつ速やかに行い、一刻も早く被災者を安心させるべきである。
  8. 今後の復興まちづくりは、被災市民の主体的な活動を中核としつつも、これを支援するための積極的な専門職能の活用を図るべきである。そして、これを現実的に実行可能とするために、研究組織、専門職能人材バンク等を設置すべきである。

以 上


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被災者生活再建支援法改正に関する公式コメント

平成19年11月14日

阪神・淡路まちづくり支援機構

被災者生活再建支援法が平成19年11月9日改正された。今回の改正は,次の3点で画期的であった。
 (1)住宅本体の再建,補修,建設等への公的支援が実現したこと
 (2)年齢要件,収入要件が撤廃され,適用の枠が大きく広がったこと
 (3)新潟県中越沖地震をはじめ4つの災害に遡及適用されたこと

 当機構は,平成19年7月19日付けでいち早く「新潟県中越沖地震に関する緊急提言」を公表した。

その中で,次のような提言を掲げた。

「被災者の生活再建に真に役立つ制度とするために、被災者生活再建支援法の改正にあたり、適用要件の緩和、手続きの簡素化、住宅本体の再建・補修・建設費用への直接給付などを行い、今回の地震に遡及適用をすべきである。」

 今回の改正は「被災者の生活再建に真に役立つ制度とする」ことに主眼が置かれ,改正内容の核心部分は当機構が提言した事項をそのまま実現したものであって,当機構としても高く評価するものである。

 もっとも,今回の改正により,全壊・大規模半壊と半壊の支援内容の差がますます明確になった。今後,家屋の被害認定が重視されることは確実である。
 当機構としては,この被害認定について,基準の明確化,調査技術の向上,不服申立制度の適正化なども含め,検討・提言をしてく所存である。


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東日本大震災の復興支援 専門家共同アピール・仙台

  東日本大震災は超広域災害、原発事故を含む複合災害という特徴をもち、災害大国といわれてきた我が国おいても過去に例のない大規模で深刻な被害をもたらし、いまなお進行中であり、まさに国家的・国民的危機というべき 事態となっている。  多くの被災者はなお避難生活のただなかにあり、日々生命や健康が脅かされているだけでなく、今後の生活再建、住宅や仕事の確保など復興に向けて数々の難問に直面している。  これ以上の犠牲者を出さず、現在の困難を乗り越えるには、国・地方公共団体が被災者の目線に立ち、前例にとらわれることなく、抜本的な支援活動、復旧・復興施策を速やかに実行することが不可欠である。あわせて民間事業者、NPO、市民など全国民を挙げた支援活動が求められるが、同時に、専門家・研究者らが持てる限りの知恵と職能経験を生かして、被災者を支援することが必要である。  私たちは、この間、被災者の声に直接触れ、助言を提供する活動を通して、この大震災復興のために自らの果たすべき役割と、相互に連携して取り組むことの重要性を改めて確認した。大量かつ多様な被災者の救済、生活再建のためには、被災地全域のみならず全国の専門家団体、研究者、NPO、行政等の一層の支援が不可欠であり、私たちはその活動を促進するためにネットワークを広げ、被災地本位の復興のために全力を尽くすことを、ここに宣言するものである。
 平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震では、甚大な被害が発生した。犠牲者のご冥福をお祈りし被災地と被災者の方々に心からお見舞いを申し上げる。
 当機構は、現下の被災地の状況に鑑み、一日も早い復旧・復興を願って、以下のとおり緊急提言する。

20011年5月2日

宮城県災害復興支援士業連絡会

         

災害復興まちづくり支援機構

         

阪神・淡路まちづくり支援機構

         


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被災者・被災地ニーズを的確に把握するための専門家機関設置の提言

平成23年5月25日

阪神・淡路まちづくり支援機構

1 東日本大震災は,超広域災害,原発事故を含む複合災害という特徴をもち,過去に例のない大規模で深刻な被害をもたらし,今なお進行中で,まさに国家的・国民的危機というべき事態となっている。 多くの被災者は避難生活の渦中にあり,生活の再建,住宅や仕事の確保など,復興に向けて数々の難問に直面している。 この困難を乗り越えるには,国・地方公共団体が被災者の目線に立ち,前例にとらわれることなく,抜本的な支援活動,復旧・復興施策を速やかに実行することが不可欠であり,国民的な支援活動が求められる。

2 本来,被災地の復旧・復興のあり方は,当事者である被災者主体で進められるべきである。東日本大震災においては,被害実態も地域の実情も様々であり,被災地に存在するニーズは極めて多様である。 したがって,復旧・復興の施策は,国,都道府県ではなく,各基礎自治体が中心となって現場の実情を反映させたきめ細やかな配慮をもって取り組む必要性がとりわけ高い。

3 そして,復旧・復興の構想,計画,実行は,行政が,被災地住民や被災事業者などと協働し,各分野の研究者・専門家などの参加を得て進められるべきであるが,今回の被害内容の甚大性,複雑性等からすると,それだけでは足りない。  広範・複合した被災者・被災地のニーズを的確に把握するために各分野の研究者・専門家の能力・意欲を動員する必要がある。具体的には,自然災害,地震,原発,建築・土木・法律・土地測量調査・登記・鑑定・財政・税務・まちづくり・医療・福祉・教育等の関連分野の研究者・実務専門職能の持てる知恵と職能経 験を活かす必要がある。  各基礎自治体は,被災地住民・被災事業者らの参加を得つつ,研究者と実務専門家を委員に加えた復旧・復興のための機関(「ニーズ把握委員会」など名称は問わない。)を設置するべきである。  そして,機関の人的資源は被災地または近隣の大学,専門家組織の構成員を中心とする必要があるが, それらが十分でないときは全国の大学,専門家組織からの応援,補充が不可欠である。

4 こうした機関は,構想・計画の前提となる調査の実施を主任務とし,被災現場での被災者との意見交換を行い,必要に応じて計画の策定,計画の実行などを補助し,さらに,国や都道府県との調整も行うことも視野に入れることとする。 内閣は国会に特別法を上程して、基礎自治体が上記機関を設置する予算と設置に必要な人的資源を確保するために助力する中央機関を早急に設置すべきである。

5 当支援機構は,被災地の復旧・復興が,被災者・被災地本位で実現されることを願って,当機構の各構成団体と共に,上記のとおり提言する。

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被災地復興への提言(被災ローン減免制度による抵当権抹消)

2012年(平成24年)8月3日

阪神・淡路まちづくり支援機構

 当機構は,阪神・淡路大震災における被災者の復興まちづくり支援のために専門士業10団体が,学術団体の協力を得て,横断的に連携した組織である(※)。
 東日本大震災では,被災地におけるワンパック専門家相談を実施するなど復興支援の活動を行ってきたところであるが,現在の被災地の状況を踏まえ,復興まちづくりにおける重要な課題について以下のとおり提言する。
(※当機構の構成団体は,「兵庫県弁護士会」,「大阪弁護士会」,「近畿税理士会」,「近畿司法書士会連合会」,「土地家屋調査士会近畿ブロック協議会」,「社団法人日本不動産鑑定協会近畿地域連絡協議会」,「社団法人日本建築家協会近畿支部」,「近畿建築士会協議会」,「建築士事務所協会近畿ブロック協議会」,「公益社団法人日本技術士会近畿本部」の7職種・10団体である。協力団体は,「社団法人日本建築学会近畿支部」,「都市住宅学会関西支部」である。)

1 東日本大震災の津波被災地では,災害危険区域から高台への集団移転など,復興まちづくりの取り組みが進められている。高台移転の手法として防災集団移転促進事業を活用する例が多い。
 ところが,震災から1年4か月が過ぎても事業は遅々として進まない。
  事業の遅れのために,生活再建の支障,地域からの人口流出,産業再興の停滞など,被災地全体に深刻な影響が出ている。復興事業を円滑に進める必要が日々高まっていると言える。

2 高台移転事業等の災害復興事業における大きな障碍の一つは抵当権の存在である。
 多くの被災自治体が,被災者所有の従前地を買い取る際に抵当権の抹消を条件としているため,抵当権の抹消ができないと手続きが立ち往生してしまうのである。
 しかるに,抵当権者である金融機関は,貸倒れの現実化を回避するため抵当権抹消を渋る傾向にある。また,災害危険区域内にある土地は市場価値が著しく低下しているにもかかわらず,被災自治体による買い取りが予定されている場合は債権回収を図るために不動産価格を高めに評価するなどして,容易に抵当権抹消に応じない状況が見られる。
 被災自治体による従前地の買い取りは,被災者の生活再建,移転先の住宅建設の費用を確保するため,復興政策的な目的にも配慮してできるだけ被災者に有利な条件を策定すべきものである。
 ところが,それに乗じて金融機関の債権回収の実を上げようとするのは,被災地の復興推進の趣旨にそぐわない。
 阪神・淡路大震災でも,たとえば被災マンションの再建では抵当権の存在が大きな障碍となったが,再建後のマンションへの抵当権の付け替えなど知恵と工夫を凝らして問題を解決してきた。
 その基底にあったのは,必ずや被災地の復興を成し遂げるという強い思いの共有であった。
 東日本大震災の被災地でも,こうした復興への認識が関係者の間で共有されることが強く望まれる。

3 阪神・淡路大震災では,住宅再建をした場合,既存のローンに加え,再建に要したローンが二重ローンとなり,新たに抵当権が設定される例が多かった。
 これに対し,東日本大震災では,二重ローン対策として「被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)」が新たに設けられた。
 この制度を利用すれば,被災者は,義援金や支援金のほか生活再建資金として500万円を手元に残し,その余の財産相当額を弁済すれば残額が免除され,復興に取り組むことができる。
 この制度を活用すれば,抵当権の問題をクリアーできる。すなわち,たとえ従前土地に抵当権が設定されていたとしても,その価値相当額を弁済すれば,抵当権が抹消されるので防災集団移転促進事業等における被災自治体による買い取りも可能となり,かつ,残額は免除されるため既存債務のない新たな生活のスタートが切れることとなり,高台に移転した際の新規ローンの設定の際も二重ローンとならず,生活再建も可能となる。
 ところが,被災地では,被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)がほとんど周知されておらず,被災者個人の問題だとして,被災自治体における積極的な利用促進が図られていないことから,利用実績も極めて少数にとどまっている。
 一方,被災地の金融機関は,被災者のローンを単に返済期間の延長等で条件変更するだけのリスケジュールに誘導し,新たな貸し出しは非常に低調である。
 しかし,被災地の金融機関の預金高は大きく増え,一部では収益がV字回復している。これは,義援金や支援金が被災者のローンの返済に充てられ,金融機関の収益となっていることを如実に示すものである。
 被災地の復興推進のための制度が使われず,全国から寄せられた善意や公金が金融機関の収益改善に当てられているという実態は極めて遺憾である。

4 当機構としては,被災地における集団移転などの復興まちづくりを推進するため,被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)の活用を強く提唱する。
 具体的には,以下の4点の対応が取られるべきことを提言する。
   (1) 被災地の各金融機関は,平成24年7月24日付け金融庁監督局長通知「いわゆる二重債務問題に係る被災者支援の促進について」(金監第1894号)第3項に基づいて,被災ローン減免制度の周知を徹底させること。
   (2) 被災地の各金融機関は,被災ローン減免制度を利用するにあたり,津波被災地における災害危険区域内の土地など利用可能性が低い物件については,自治体買い取りを前提とせず,適正な市場価格に基づいて処理を行うこと。
   (3) 被災地の地方自治体は,防災集団移転促進事業等の取り組みの一環として,被災者に対して被災ローン減免制度の活用を周知するとともに,金融機関に対して同制度を活用した抵当権抹消を推進するように働き掛けをすること。
   (4) 集団移転等を行う際に,抵当権抹消が問題となる場合は,法律専門家等の関与を得て,行政,住民,金融機関,専門家が協働して問題の対処にあたるスキームを確立すること。
                                       以上

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住宅復興政策について

2012年(平成24年)8月3日

阪神・淡路まちづくり支援機構付属研究会

当機構は,阪神・淡路大震災における被災者の復興まちづくり支援のために専門士業10団体が,学術団体の協力を得て,横断的に連携した組織である。
構成団体 「兵庫県弁護士会」 , 「大阪弁護士会」 , 「近畿税理士会」 , 「近畿司法 書士会連合会」 , 「土地家屋調査士会近畿ブロック協議会」 , 「社団法人日本不動産鑑定協会近畿地域連絡協議会」 , 「社団法人日本建築家協会近畿支部」 , 「近畿建築士会協議会」 , 「建築士事務所協会近畿ブロック協議会」 ,「公益社団法人日本技術士会近畿本部」の7職種・10団体 協力団体 「社団法人日本建築学会近畿支部」 , 「都市住宅学会関西支部」
東日本大震災では, 被災地におけるワンパック専門家相談を実施するなど復興支援の活動を行ってきた。
当機構のもとに付属研究会があり、当機構のメンバーのほか、学者・研究者がメンバーとなっている。

東日本大震災の住宅被害を特徴づけるのは、「持家被災」の多さである。東北沿岸地域では、住宅ストックの中心を持家が占めたことから、そこに発生した津波は大量の持家を滅失させた。被災自治体の多くは、被災者の実態に関する多彩なアンケート調査を実施してきた。その結果によれば、仙台都市圏を除く地域では、震災前に持家に住んでいた被災世帯が8割を超える。阪神・淡路大震災では、「借家被災」によって、多数の世帯が住む場所を失った。兵庫県は、震災発生から約1年後に仮設住宅世帯を対象としたアンケート調査を実施した。これによれば、震災前の住まいが持家であった世帯は約1割にすぎず、借家であった世帯が9割近くに及んだ。阪神・淡路では、「借家被災」に対する対応が住宅復興の中心的な政策課題となった。東北では、「持家被災」が多いという実態が政策形成の条件になる。

この「持家被災」は、被災者のタイプによって、異なる文脈をもつ。被災した世帯のなかで、中心的な位置を占めるのは、高齢者のみの世帯である。彼らの住んでいた持家の大半はアウトライトであった。アウトライトとは、債務をともなわない状態を意味する。高齢世帯では、住宅ローンを完済したケースが多い。ここで重要なのは、アウトライト持家は、住宅ローン返済の義務をともなわず、住居費負担の軽さを特徴とする点である。高齢世帯の大半は、年金によって生計を維持し、弱い経済力しか有していない。彼らにとって、住居費負担の軽い持家は、生活基盤の安定のために、重要な役割を担っていた。言い換えれば、アウトライト持家の消失は、高齢世帯の生活基盤を掘り崩す深刻な要因になる。

一方、夫婦と子世帯などの稼働年齢層の被災世帯が存在する。このタイプでは、住宅ローンの残債をかかえるケースが多い。釜石市での被災者調査によれば、夫婦と子の4割近くに住宅ローン残債がある。彼らは、持家を流され、重い債務だけが残るという深刻な事態に見舞われている。高齢世帯に比べて、夫婦と子世帯では、稼働収入をもつケースが多い。しかし、その経済力は、震災のために低下している場合が多い。そこに住宅ローンの残債が加わることは、生活再建を妨げる重大な要因になる。

東北沿岸地域の住宅復興では、「持家被災」にどのように対応するのかが主要な検討課題になる。被災者の多くが持家に住んでいたがゆえに、住宅復興の多くを持家の自力再建にゆだねるという政策方針がとられる可能性がある。先日(2012 年7月 26 日)の各紙が宮城県試算の自力再建戸数を約3万と報道したことは、関係各方面に衝撃を与えた。他県においても現状ではその数が多数に及ぶとみて間違いない。しかし、被災者の年齢、所得、雇用、 負債などの指標からすれば、 自力再建にもとづく住宅復興が成功する可能性は低い。
持家再建を促進するには、公的支援の拡充が必要かつ必然になる。
住宅再建のための中心的な政策手段は、住宅ローン供給である。しかし、この融資供給という技術は、被災者の救済に役立つとは限らない。高齢の被災者の大半は、住宅ローン返済に必要な所得を備えず、また年齢が高い点から、借入のためのクレジットをもっていない。夫婦と子世帯の多くは、住宅ローンの残債をすでにかかえ、「二重ローン」の重みに耐えるほどの経済力を有していない。東北に限らず、日本全体がデフレーションに直面し、長い経済停滞を経験してきた。このデフレ下では、債務の実質負担が増大し、所得が停滞するために、住宅ローンの合理性が減る。多くの被災者が住宅ローンを使って住む場所を再建するとすれば、その返済負担は被災者の消費力を減少させ、地域経済の再建を妨げる原因になる。
持家再建のために「融資」だけではなく、「補助」が必要になってきている実態に注目する必要がある。 阪神・淡路大震災の経験をもとに1998年に制定された被災者生活再建支援法によって、住んでいた住宅が全壊し、新たに住宅を建築・購入する世帯には、300 万円の支援金が支給される。これに加え、被災地の自治体が持家再建補助を独自に供給する場合がある。東日本大震災以前では、2000年の鳥取県西部地震にさいして、鳥取県が住宅再建補助金を独自に供給した。また、2004 年の台風・洪水・地震対応として新潟県、京都府、徳島県が住宅再建を支援した例がある。東日本大震災では、岩手県が住宅を新築する世帯に最大565万円を補助する施策を開始した。同県釜石市は、最大100万円の住宅再建関連の補助を供給する予定である。東北の復興では、多数の防集事業が計画されている。

これに関連して、仙台市は、被災者が移転先の土地を市から借りる場合、借地料を長期免除とする施策を実施する。山元町は、移転先で住まいを建築する世帯を補助する。これらの一連の施策は、 「融資」だけでは住宅再建が進まないという政策判断にもとづいている。

私有資産である持家に対する「補助」の根拠は、安定していない。被災者生活再建支援法の創設過程では、個人補償の是非が論点となった。政府は、住宅再建に関する個人補償を依然として認めず、同法の支援金供給を「補償」ではなく、「支援」と位置づけている。

東北での自治体による持家再建補助は、利子補給、借地料免除、再建住宅の優良さなどの条件設定といった「迂回的形態」をとる。これは、公的補助が私有資産形成に結びつくという関係の「可視性」を弱めるためと推測される。

持家再建に対する「補助」が増えてきているのは、「理屈」に先だって被災者の「実態」に対応する必要が大きいためである。この状況のもとで、住宅再建向け公的援助を拡充するには、根拠説明の強化と洗練が重要な課題になる。これに関して、日本弁護士会連合会等は、憲法13・25条、国際人権規約などにもとづき、住宅の個人補償を支持する見解を示してきた。また同時に、持家再建の促進は、その所有者を助けるだけではなく、地域経済とコミュニティの再生を支え、自治体の崩壊を防ぐ点において、公益性をもつ。これらの議論をもとに、住宅再建「補助」の根拠を固め、そして、災害救助法の発動をともなう災害における「住宅再建支援法」を早急に制定し、東日本大震災の被害に遡及適用する必要がある。

また同時に、持家再建に固執すべきではない。東北の住宅復興では、災害公営住宅に対する需要がしだいに拡大するという傾向がすでに現れている。持家に住んでいた被災者であっても、年齢が高く、所得が低い場合は、その再建を難しいと判断し、公営住宅入居を希望するケースが多い。被災者の実態―――高齢、雇用不安、住宅ローン残債・・・・・・――――からすれば、公営住宅需要がさらに増える可能性がある。公営住宅の建設・管理には、自治体の多大の仕事が必要になる。このため、公営住宅を増やし、その維持責任を負うより、被災者の自力住宅再建の進捗を期待する自治体が多いと推測される。しかし、被災者には、住宅安定に向けて、複数の選択肢を提供することが大切である。持家再建に対する公的支援を拡大し、それに合わせて、災害公営住宅を十分に整備する、という施策が望まれる。

さらに、持家再建にせよ、公営住宅供給にせよ、それぞれの多様性の幅を広げる必要がある。公営住宅の多くは、集合住宅形式をとる。しかし、東北では、とくに高齢の被災者は、コンクリートの集合住宅を好まない場合がある。木造一戸建ての公営住宅を増やす方策が検討されてよい。高齢者が多く、今後さらに増える点からは、コレクティブ・ハウジング、シルバー・ハウジング、ケア付き住宅などの整備が求められる。持家再建では、個別世帯がバラバラに住まいを再建するのではなく、その集合の仕方を検討し、住宅再建が街並みの形成に結びつくような方向が期待される。住宅復興のあり方の多様さを拡大し、被災世帯の実態と被災した場所に適した住まいをつくるには、地域のまちづくりの現場で工夫を重ねることが、条件になる。この意味では、住宅復興のアイデアを机上で練るだけではなく、アイデアを引きだすための環境―――被災者・行政・専門家の話し合いの機会の確保、新しいタイプの公営住宅の考案・建築に必要な資金の担保、住宅施策立案への被災当事者の参画など―――を整えることが重要になる。


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